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盆踊りの枠組み
踊りの芸態〔1〕
踊りの本質
盆踊りが生まれ、成長し、広まり、さかんに楽しまれてきた世界−高度成長の前−そこは「日常生活で文字を使わない世界」でした。

新聞も雑誌も、ワープロもメールも、私たちの身の回りに氾濫する文字はどこにもありません(ましてやテレビなど)。したがって、口でしゃべって伝える「ことば」や「うた」、カラダで表現する「おどり」、さまざまな「儀式」、そして「自然現象」など、「文字以外のもの」が豊かで重要なメッセージ力をもっていた世界です。「文字なしに充足した、それなりにきわめて豊かな」
社会であったといえるでしょう。

現代に生きる私たちも、盆踊りの興奮に巻き込まれるとき、こうした忘れていたコミュニケーションのちからが甦ってくるのを感じます。
「踊り」「うた」「いでたち」など盆踊りの芸態を見る前に、これらがいかに強力なメッセージ力を持っていたかをじゅうぶんに思い起こしておきたいと思います。それでは、はじめましょう!

            ※川田順造「口頭伝承論」河出書房新社
「盆踊り」というのに、「盆舞い」とはいいませんね。
盆踊りには、「踊り」でなければならない理由があるんです。似ているようで異なる「舞」と「踊り」。2つを対比して見ることで、「踊り」の本質をはっきりさせていきたいと思います。
◆「舞」と「踊り」
「舞」と「踊り」は、ともに日本の芸能の基本となる「うごき」(身体表現)です。単に動作が違うというだけではなく、芸能としての意味そのものが異なると言うことができます。
古典的な図式ではありますが、この2つを対比する中で盆踊りの芸態にかかわるたくさんの重要な論点が出てきます。
表 「舞」と「踊り」の対比

(「民俗芸能辞典」「藝能辞典」(いずれも東京堂出版)などを参考に作成) 
 
以下、それぞれの論点について見ていきたいと思います。
◆基本単位
舞いは一人からはじまる芸能です。複数で舞う舞いもありますが、一人で舞うことはまったく自然であり、むしろ基本的なかたちといえます。しかし、踊りはふつう一人でははじまりません。複数の人・集団で踊るのが日本の踊りの基本形です。これは、盆踊りの基本性質ともいえるたいへん重要なポイントです。お盆はムラのみんなで精霊を迎え、送るわけですから、盆踊りはみんなで参加できる「踊り」である必要があるわけです。
さて、「集団で踊る」ということから、芸態の面では「集団のかたち=フォーメーション」の問題がでてきます(これについては次項「踊りの集団形態」で扱います)。また、踊りの振りの面でも、「集団のみんなで振りを揃えて踊る」という盆踊りの特徴につながってきます。
このように「集団性」は、盆踊りの芸態ともかかわる本質的な特徴なのです。
◆参加者の性質
舞ったり、踊ったりするのはどんな人でしょうか。舞を舞う人として思い浮かぶのは、巫女のような宗教者や、専業の芸能者のような人たちです。いわば特別な能力や資格を持った人たち、「プロ」と言っていいかもしれません。
ふつうの村人が舞い手になるような場合も、精進潔斎をしたり、練習を重ねて舞い手としての資格を得るのであって、誰でも舞い手になれるわけではありません。「限られた参加者」といってもいいでしょう。
これに対して、踊りは集団の芸能ですから、たくさんの人に参加してもらう必要があるわけです。盆踊りの場合、この傾向は特に強く、素人でもよそ者でも誰でも参加できる「門戸の広さ」が大きな特徴となっています。※ ※参加者の限定される盆踊りもあります(この問題は「人・組織」で扱います)。ただし基本的な特徴は、「多くの人が参加できる」ことにあるといえます。
◆運動の方向
舞のうごきの特徴は「旋回」「回転」です。足を地面に摺るように静かに移動しながら、回転を加えていくといったイメージでしょうか。語源的にも、「マフ」(まう)という言葉は「マハル」(まわる)という言葉と密接な関係が指摘されています。
これに対し、踊りの運動の特徴は「跳躍運動」「上下運動」です。「躍りあがる」という表現は今でもよく使います。各地の盆踊りや念仏踊りでは、飛んだり跳ねたりといった激しい動きを持つものによく出会います。
◆動作の重点
舞では回転の動きを強調するためにも、手と上半身の動きが重要な意味を持ちます。「手」という点では、扇や鈴のような「採り物」を持つことも多く見られます。※
※ただし、盆踊りでも扇やうちわを持つ例はしばしば見られます。
これに対し、踊りは跳躍運動ですから重要なのは下半身・足のほうです。「おどり」と読ませる漢字「踊」「躍」「跳」は、いずれも足扁の字であることからも、足の動きが重視されていることがわかります。

じっさい、いまも各地の盆踊りではしばしば「踊りを覚えるならまず足から」とアドバイスされます。足の動きが重視されていることがわかります。

踊りは足が基本
<020831・岐阜県郡上八幡>
◆運動の「意味」 −神迎えと神送り
こうした舞と踊りの特徴は、相互に関連しながら全体としてひとつの宗教民俗的な意味につながっています。舞は「神迎え」の動作に関係し、踊りは「神送り」「霊送り(たまおくり)」などの動作となじむものです。
典型的なパターンで考えて見ると、巫女が採り物を手に持ち、優美にゆっくりとまわりながら、次第に神懸かりになっていく、というのが舞いの「神迎え」の姿です。一方、みんなで活発に踊ったり跳ねたりしながら、さまざまな精霊を共同体の外に送り出す、というのが踊りの「神送り」の姿といえます。 ※新野盆踊りでは、盆踊りの最後の送りの行事を「踊り神送り」と呼んでいます。踊りながら神(霊)を送る、というそのままの名前で、踊りと「神送り」の関係の近さを示すわかりやすい例です。
こうしうた整理で、「踊り」の本質が少しづつはっきりしてきたのではないでしょうか。次項では、「集団形態」や「振り」などの盆踊りの具体的な芸態について見ていきたいと思います。
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