8月14日「白鳥踊り」(しろとりおどり)

ローカル線の旅・長良川鉄道


8月14日、月曜日。
夏休み初日。
2000年の「盆踊りツアー」の始まりです。

小田原から東海道新幹線「こだま」で名古屋に出た石光・柳田。名古屋でお茶と弁当を買い込み、特急に乗り換え。美濃太田駅へは、お昼過ぎに到着しました。

美濃太田は3セク「長良川鉄道」の始発駅。われわれのツアーの、事実上の出発点です。

長良川鉄道は、かつて国鉄時代には「越美南線(えつみなんせん)」という風雅な名前でした。ちなみに幻の越美北線は、福井県に抜ける計画だったそうです。いまでも沿線の郡上八幡駅には小さな鉄道ミュージアムがあり、往事を彷彿とさせる鉄道グッズの数々を見学することができます。
地域の人々に愛される越美泉は、盆踊り歌にもちゃんと詠み込まれていました。

そのみなかみの 越美線 
郡上のはちまん 名にし負う
(郡上踊り「まつさか」歌詞より)

さて美濃太田を出発。
ここから先は、まるでバスのような長良川鉄道で、昼下がりの田舎の風景の中をゆっくりと進んでいきます。

真夏の車内は、いつもながらすこし蒸し暑く、ぼーっとしながら長い時間が過ぎていきます。カラダは前日までの仕事のリズムをひきずっていて、まだ夏休みのリズムがつかめず、ちょっと息苦しい感じのするひとときです。

車窓から。外は暑そう…


関市を過ぎてしばらくいくと、深い緑色の美しい長良川が現れます。
この後鉄道は、川と交差と平行を繰り返しながら、次第に北上していきます。

郡上八幡駅でのんびり一休み

郡上八幡駅付近の、美しい山と川をぬって進む風景はまさに別天地。「理想の夏休み」を過ごすなら、こんなところ…といつも感じさせられます。
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源流の里「美濃白鳥」に到着


午後3:00。
のんびりした長良川鉄道も終点に近い「美濃白鳥駅」に、ようやく到着しました。

改札を出ると、駅前広場には気持ちのよい夏空が広がっていました。上空には、色とりどりの吹き流しが風にひるがえっていて、きょうが徹夜踊りのまつりの日であることがわかります。

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 「ここらが今晩の会場みたいだね」と、さっそく白鳥駅前付近をひとめぐり。落ち着いた感じで、歴史を感じさせる建物がそこここにあります。

地元書店に飛び込んで、白鳥踊り関係の資料あさり。
ふと聞こえてきたのは「きょう、踊りにいく?」「うーん、さいきんの若い子の踊りはちょっとね」という、大学生風のふたりの会話。帰省した若者同士でしょうか。徹夜踊りのきょうは、街もなんだか少しそわそわしているかんじでした。
夕方の光の中を駅にもどり、タクシーで本日のやどへ。白鳥踊りを見に来たと水を向けると、さすがは踊りどころ。運ちゃんから「踊り覚えるなら足からね」と、さっそく踊り指導が入ります。

ようやく美濃白鳥に到着

たくさんの吹き流しが歓迎

「民宿いよじ」は、われわれとそう年のかわらない若主人が始めた、まだ新しい感じの宿。

本館1Fの料理店も兼ねた食堂で夕食をいただきました。カウンターの中ではご主人が包丁をふるってくれて、おいしいものをいろいろと出してくれます。
脇の広間の方は、飛び込みの学生集団や家族連れで大賑わい。みんな徹夜踊りの前の興奮状態といったところでしょうか。若い従業員さんはてんてこ舞いですが、年輩の方ははやくもたびれ気味の様子で、ご主人も客さばきにはけっこう苦労しているようでした。

演劇パフォーマンス登場!

夕食に満足して外に出ると、山の端からはきれいな満月が昇っていました。
絶好の盆踊り日よりです。
部屋へ戻って下駄を取り出し、取材用具も準備ok。
満を持してタクシーに乗り込み、踊り会場へ向かいます。
会場は期間中日によって変わりますが、今夜の白鳥踊りの会場は駅前通りです。
商店街に入ってタクシーを降りると、会場付近の広場にはすでに人だかりが。「はやくも踊り開始か」と思いきや、どうもなにかイベントをやっている様子です。

ダイナミックなパフォーマンス。後ろに連判状、手前には大太鼓が

聞いてみると、徹夜踊り初日を記念して、演劇集団が郡上一揆をテーマにしたパフォーマンス「宝暦義民太鼓」を演じているところでした。

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仮面をつけて一揆衆に扮した集団が、藩の圧制に苦しんだあげく自立の踊りを踊る…といったストーリーだったみたいです。
輪になった若者たちの力強い輪踊り。
ん?この聞き覚えのある曲は…郡上踊りの「ヤッチク」ではないか! 
見物客から拍手が沸いて、ひとしきり盛り上がりました。 
ダイナミックなパフォーマンス。後ろに連判状、手前には大太鼓が。
白鳥踊りは郡上踊りと同じ「盆踊り文化圏」にあり、共通の歌詞や踊りもいくつかあります。街の人の会話でも、「若い頃は、徹夜踊りのときは白鳥を踊ったあとで郡上八幡まで出かけて朝まで踊ったもんだ」という感じでした。

いよいよ踊り会場へ!


イベントが終了し、みんなで今夜の踊り会場の「駅前通り」へ移動していきます。

会場は、郡上八幡にくらべるとすこしこじんまりとしたフンイキで、踊りの輪も、ひとまわりからふたまわりも小さいようです。
しかしながら、長良川源流の山里で味わう手づくりの盆踊りは、にぎやかな郡上八幡とはまたひと味ちがった独特の魅力がありました。

踊り会場へ移動。切子灯籠がひるがえる

踊りが始まりました。
さいしょの曲は郡上踊りと共通の「かわさき」「はるこま」など、ちょっとは知っている曲。さっそく踊りの輪の中へ。

踊りやぐらをめぐって踊る

1年ぶりの踊り始めの曲は、いつも独特のよろこびがあります。下駄の感触も、なつかしい。
囃子のテンポなどは、郡上八幡とすこし違うように感じました。

そのうちに、白鳥独自の曲がスタート。
郡上にくらべると白鳥踊りは「リズムが早く、若者向けの踊り」といわれており、どんな踊りがくるか興味津々です。

まず面白かったのが「猫の子」。
右手、左手、両手と順番に挙げて、手首をくるりと回転させるのは、まるで「ネコパンチ」そのものといった感じです。「猫の子」は、子猫の仕草を取り入れたと言われ、郡上一円に分布する踊りですが、郡上踊りのそれよりも、もっとリアルな感じがしました。

おどりとカラダのふれあい
「やっさか」「おいさか」など、白鳥ならではの曲がつづいた後、踊りは問題の「神代(じんだい)」へ…。

踊りが始まると、早い動きで何がなんだかわからないうちに、あちこちで悲鳴と笑い声があがります。3歩進んで急ターン→後ろをむいて、3歩進んで→またまたターン!という、初心者には息もつかせぬはげしさ!
当然ターンのタイミングのあわないわれわれ初心者は、前後の人と衝突したり、はたまた下駄で足を踏、まれてしまったり。あちこちで同じようなシーンが見られ、そのたびに笑いが起きています。

同じ踊りをいっしょに踊り、カラダごとぶつかりあう中で、踊りの輪はしだいにかたさがとれて、気持ちがうち解けてくる感じです。大混乱の中で「都会の盆踊りじゃ、こんな楽しさは味わえないね」と想っていました。

ところで。
この踊りは途中一列になって進む時に、みんな両手を前に挙げてブラブラさせる(前の人の肩をトントンという感じ)仕草があるのですが、これはいったい…?

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あとで調べてわかったのですが、実はしばらく前までは、前の人の肩に手をのせて踊っていたそうです。さいきんの若者は恥ずかしがって、前の子の肩に手がのせられない、とのこと!

人とじかに触れあうことが苦手になってきているのは、都会ばかりではないようです。でも、みんな本当は肩に手を置きたいんだし(ですよね?)、みんながつながって輪になったら、きっともっとすごく楽しくなるんだけどなぁ・・・。

次第にかたさもほぐれて

若者たちの踊り

若者たちの踊りの輪 とにかく楽しい踊りではありましたが、運動不足の30代には少々ハードでありました。
寝不足の柳田はめまいがしてすでにフラフラ、石光は足裏筋が痛むという状況。あと2日も徹夜盆踊り取材が続くというのに、はやくも前途が思いやられる状況です。

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たまらず踊りの輪を抜け、通りのはじで小休止。ちょうどそこでは若者グループが自分たちだけの小さな踊りの輪をつくって、楽しげに踊っていました。
昼間、街で再会をよろこんでいた帰省の若者かな…?

若者たちの踊りの輪

踊りたい人が踊りの輪をつくる。その光景がとてもうらやましく感じられました。

11:00。
さすがに疲労もピークに達し、宿へ引き上げることに。
徹夜踊りは、時間帯的にはこれからがホンバンということはわかっているのですが…なにぶんあと2日の強行日程を考えると、ここで無理は禁物。大事をとって踊り会場を後にしました。

あとは部屋でビールを飲みながら、「熱闘甲子園」。夏休みの醍醐味です。