盆入りとともに、「迎え盆」に備えてさまざまな準備がはじまります。
これを「盆支度」(あるいは「盆用意」)といいます。
夏もいよいよ盛りにむかう中、家々ではこうした準備を整えながら静かに迎え盆の到来を待ちます。
盆路つくり(ぼんみちつくり)
お盆に戻る精霊たちは、さとの近くの山や墓地から家々に帰ってくると広く考えられています(地獄の釜と山や墓地がどうつながっているのかとか、あまり深く考えないようにしましょう)。
この精霊たちのための帰り道を整えるのが、「盆路つくり」です。「精霊路」(しょうりょうみち)「朔日路」(ついたちみち)とも言われます。
作業は「路薙ぎ」「路刈り」「刈り路つくり」などと言われ、墓地から家々への路のほか、村境や山の頂まで、共同作業で路の両側の草刈りをしていきます。暑いシーズンにはちょっとキツそうな作業です。
盆灯籠(ぼんどうろう)
この世に戻ってくる精霊たちは、それぞれの「家」を目指します。このときの標識(目印)となるように、盆入りの後に庭の高い場所や母屋の周囲などに灯籠や提灯をかかげます。
これが「盆灯籠」です。「高灯籠」(たかどうろう)という地方もあります。
一般にお盆には「火焚き行事」と呼ばれる火にまつわる多彩な行事が営まれますが、この盆灯籠はその代表例と言えます。
盆灯籠はたいへん古い民俗行事で、有名な藤原定家「明月記」にも、鎌倉時代にすでに民間で行われていた盆灯籠らしい様子が記されています。
前のお盆から1年以内に亡くなった人のいる家、つまりはじめてお盆を迎える「新精霊」 のある家では、特に盆灯籠に力を入れて行います。灯籠が掲げられる期間も長くなります。送り盆の後も7月31日ころまで掲げておいたり、また新精霊が出てから3年間は掲げ、3年目に川などに流す、という地方もあります。
盆花とり(ぼんばなとり)
13日の迎え盆までに、山から花を取ってきて、盆棚や墓地に供えるのが盆花採りで、「盆花迎え」と呼ぶ地方もあります。11日~12日ころに行う地方が多いようですが、7日に採ってきて13日に供えるというところもあります。
精霊のいる山から取ってくるということで、正月の「若木取り」の行事と対応するものと考えられ、花は若木と同じく精霊や先祖の「依り代」(憑依する対象)と考えられています。
盆花の種類は、地方ごとにさまざまで彩りがあります。秋の草花を数種とか、季節の花ならなんでもよいという地方もあります。
桔梗 岩手県岩手郡
山撫子(やまなでしこ) 神奈川県津久井郡
山百合 岐阜県加茂郡
溝萩(みぞはぎ)と鬼灯(ほおづき) 愛知県丹羽郡
女郎花(おみなえし) 奈良県吉野郡
草市(くさいち)
盆支度のために必要な用品を扱う「草市」も、お盆の風物詩です。
暮れの「年の市」に対応するものです。「盆市」「盆草市」「草の市」「盆の市」「手向けの市」「花市」など、地方によってさまざまな名称があります。
草市で扱う品物としては、「秋草」「ハスの葉」「槙」「なすやキュウリの牛馬」「真菰筵」「灯籠」「太鼓(盆踊り用)」「団扇」「提灯」「おがら」など様々です。
都市部の商店街でも、雑貨屋さんや八百屋さんの店先で、草市のフンイキをちょっとだけ味わうことができます。
佃島盆踊りと同時開催の月島の草市 (東京都中央区月島) |
雑貨とならんで「おがら」(手前)や「盆花」(上)が売られる(神奈川県平塚市) | 露天の花屋さんも出店。盆花の名残か(東京都中央区月島) |
盆棚つくり(ぼんだなつくり)
お盆にやってくる精霊を迎えるために、家々では特別に棚をしつらえます。これが「盆棚」です。「ショウリョウタナ」「センゾタナ」などと呼ぶ地方もあります。お盆を探求する上でたいへん重要な対象で、現在もその性格をめぐって激しい議論が戦わされています(詳細は研究編参照)。
盆棚は、つくり方も素材も地方によって異なりますが、一般的なかたちは竹などを骨組みにして棚をつくり、仏壇から位牌を移したり、盆花や水、供物を供えたりするものです。
多くの場合、迎える霊によって複数の種類の「棚」がつくられるのも大きな特徴です。
とくに丁重なのが新精霊(この1年間に亡くなった人の霊)のためのもので、生竹や杉の葉などで精巧な棚をつくります。場所は前庭や軒先が多く、戸外の方向を向けて建てられます。
いっぽう、祀る家族のいない無縁仏などのためつくるのが「無縁棚」で、「ガキダナ」「ホカダナ」などとも言われます。供物はガキノメシなどどいい、蓮の葉や里芋の葉に畑作物を盛ったりします。戸外などにつくられることが多いですが、棚はつくらず、盆棚の下に葉などに盛った供物を供える地方もあります。