長いお盆のクライマックスが、「送り盆」です。
新暦・旧暦とも、15日・16日ころが中心となります。
迎えたものは、送り出すのが定めです。

いったんはお迎えしたご先祖様や新精霊、そして招かれざる
悪霊たちに、いかにして”あの世”へ戻ってもらうか。
日本人は、時代や地域ごとにさまざまな工夫をこらして、
この問題に取り組んできました。

この結果、日本の夏は、実に情緒豊かな美しい行事の数々
によって彩られることとなったのです。

「送り」は、わたしたち日本人の誇るべき文化といっても
過言ではないでしょう。

送り火-火の民俗

迎え盆の際には「迎え火」がありましたが、これに対応するのが「送り火」です。お盆を代表する火の民俗といえます。

◆五山送り火
京都・大文字焼。

日本でもっとも有名で、もっとも大きく、そしてもっとも古い歴史をもつ送り火です。ほかに「舟形」「妙・法」「左大文字」「鳥居形」など、8月16日には京都市街を取り囲む山々に「五山送り火」が灯され、夏の風物詩となっています。

ところで、それぞれの「字」を遠い昔から受け継ぎ、管理してきたのは、山麓の地域に住む人々でした。五山送り火は、もともと京近郊の村々の共同体行事としての「送り火」であったのです。

京の夏の夜を彩る大文字焼
<06.08.16 京都市左京区>

同様の巨大な火の民俗は、神奈川県箱根明星ケ岳の大文字焼きなど全国に見られますが、京都五山送り火が、多かれ少なかれそのコンセプトに影響を与えてきたと考えられています。

1年間にわたる準備と手間をかけた五山送り火の燃焼時間は、わずかに30分。京の街にあふれた人々の笑顔と歓声で報われます。

◼️関連記事(外部リンク)
「京都五山送り火 かつてあった「い」場所特定と発表 研究者」(2018.8.8 NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180808/k10011569691000.html

◆家々の送り火

こうした大規模な送り火が「ムラの盆」ともいうべき共同体の盆行事である一方、各家々においても、「イエの盆」としての送り火が焚かれます。

燃やす素材はオガラ(麻の幹)や松、豆殻など多様であり、その場所も家の門の前や墓地、河原など一定しませんが、それぞれのイエの先祖や新精霊を家族で送り出す、ゆかしい行事です。

長野県の新野では、夕方の街の通りに沿って点々と灯された送り火がとても印象的でした。

点々と灯された送り火
<00.08.16 長野県新野>

精霊送り

迎えた諸霊をあの世へと「送り出す」という動きを、よりはっきりと示しているのが「精霊送り」の行事です。

これは、家々でお盆の供養のために盆棚等に上げられていたさまざまな食べ物=「盆供」を下げ、川に流すなどして精霊とともにあの世に送り返す、というものです。

精霊送りは河原や海辺などで行われるケースが多く、「水の民俗」としての性格を強く持っています。

小さな船をつくって、そこにあの世への精霊の土産としてお盆の供物を載せて送り出す「精霊船」の伝承を持つ地域も少なくありません。特に丹後・若狭・隠岐などの日本海側の集落では、子どもたちを中心とする精霊船の行事がいまも盛んにおこなわれています。

沢辺に置かれた盆の供物
<06.08.17 愛知県田峯>
<隠岐・西ノ島浦郷のシャーラ船(精霊船)行事>


子ども達を載せたシャーラ船

盆供や水をシャーラ船に預ける

岸では念仏で船を送る

<いずれも07.08.16隠岐>
また、精霊船に盆灯籠を載せたり、水辺で送り火を焚くなど、水の民俗と火の民俗の融合も見られます。灯籠だけを流すのが、いわゆる「灯籠流し」です。京都・丹後宮津や広島市・太田川の灯籠流しなどは全国的にもよく知られています。

近年では、環境問題の視点から精霊送りの民俗が変容し、また徐々に姿を消しつつあるようです。川辺に運ばれた盆供は、もはや実際に流されることなく別途回収されます。また灯籠にもヒモをつけて後日回収したり、水に溶ける灯籠が開発されたりしていますが、いかにも情緒に欠け、また環境面でも根本的な解決にはなっていないようです。伝承の民俗文化と環境を両立させる優れた智恵を、粘り強く模索したいところです。

お盆と盆踊り

◆京都五山送り火は、盆踊りともとても深い関係があります。

「妙・法」の二文字を灯す京都北部・松ヶ崎にある日蓮宗湧泉寺は、現存する伝承系盆踊りの中ではおそらく最古の文献記録をもつ「題目踊り・さし踊り」(京都市登録無形民俗文化財)の開催地として知られています。

実はこの「松ヶ崎題目踊り・さし踊り保存会」と「松ヶ崎妙法送り火保存会」は、同じ檀家組織(財)松ヶ崎立正会会員のメンバーで構成されていて、2つの組織は事実上重なっているのです。

16日午後8時半過ぎ。
「妙・法」の送り火を終えた保存会のメンバーは、その足で山を下って湧泉寺に集合。一息入れるヒマもなく、9:00からは「題目踊り・さし踊り」が盛大に始まるという寸法です。踊り手の揃いの浴衣の背中に染め抜かれているのは、まがうかたなき「妙・法」の二文字。京都町衆伝統の日蓮信仰と、盆踊り・盆文化の興味深い結合例です。

妙・法の「法」の字
<06.08.16 京都市左京区>
松ヶ崎湧泉寺のさし踊り

<06.08.16 京都市左京区>

染め抜かれた「妙法」の2字
<06.08.16 京都市左京区>
(参考文献)
藤井正雄「盂蘭盆経」講談社、2002年
八木透編著「京都の夏祭りと民俗信仰」昭和堂、2002年
(財)京都市文化観光資源保護財団・大文字五山保存会連合会編著「京都大文字  五山送り火」(財)京都市文化観光資源保護財団、2000年

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