最近は盆踊りの終わる時間もだいぶ早まっているようですが、それでも盆踊りは夕方から夜というイメージはまだ共有されているようです。

では、あらためて盆踊りはなぜ夜に踊るのでしょうか。「夜のほうが涼しいから」? いえいえ、それだけではない素敵な理由があるのです

◆盆踊りの時間は「夜」

盆踊りの開催時間について調査したデータは見たことがありませんが、都市周辺の盆踊りの傾向を見る限りでは、夕方に始まり、夜9時ころまでというケースが多いのではないでしょうか※。

盆踊りの時刻の上限が設けられる理由をあらためて考えてみると、「子どもへの配慮」「風紀上・安全上の問題」「隣近所への音の配慮」といった点が挙げられます。現代系の新しい盆踊りだけでなく、古い伝統をもつ伝承系の盆踊りでも、こうした開催時間への配慮がなされるケースは、いまでは普通に広く見られます。

とはいえ、盆踊りの時間は夕方から夜半にかけての<夜>であるという認識は、まだ日本人の中では共有されていると言えそうです。

※もちろん学校行事の盆踊りなどでは、日中に開催されるケースもしばしば見られます。

盆踊りの時間は夜
<世富慶エイサー>

◆なぜ「夜」に踊るのか -お祭りの時間論

なぜ、明るく運動に適した日中に踊らず、わざわざ夜に踊るのか。
「涼しいから」というのは副次的な理由です。たとえば、後で触れるように、全国には一晩中踊り明かす「徹夜踊り」の伝統を意識的に守る地域が少なくありません※1。これほど日本人が「夜」にこだわってきたのには、やはりそれだけの理由があるものと思われます。

※1 私たちが訪れた中だけでも、以下の盆踊りで徹夜踊りが確認できます。
・おわら風の盆
・新野盆踊り
・郡上踊り
・白鳥踊り
・猟師かんこ踊り

もっとも重要な、そして根本的な理由として挙げられるのは、日本の祭りそのものが本来「夜」に行われるものであった、ということです※2。

現代に生きる私たちは、お祭りが日中に開催されていることにもはや疑問を感じません。しかしよく気をつけて見ると、古式ゆかしい神社のお祭りなどでは「宵宮」「夜宮」の伝統が見られたり、夜を徹した儀式が行われていることに気づきます。

「夜」は、神聖で神秘的な時間であり、神様が来臨する時間であるというのは、とても自然で、かつとても古い時代からの考え方です。この夜に神様を迎え、歓待し、送り出す-というのが、日本のお祭りの基本的な構造なのです。

そして、訪れた神様に食事を差し上げ、さまざまな芸能でおもてなしし、みんなで一晩寝ずにお側にお仕えする、というのがお祭りの儀式の中身ということになります。

※2 柳田国男の快著「日本の祭」に、祭りの時間の本質が余すところなく語られています。

「我々の祭りの日もその日の境、すなわち今なら前日という日の夕御饌(ユウミケ)から始めて、次の朝御饌(アサミケ)をもって完成したのであった。・・・つまりこの夕から朝までの間の一夜が、我々の祭りの大切な部分であって、主として屋内において、庭には庭燎(かがりび)を焚いて奉仕せられたのであった。」(柳田国男著、角川文庫より引用)

宵宮のまつりの例(江ノ島神社)
<藤沢市・02.07.13>

お盆は、家々やムラにとっての大切な精霊を迎えるおまつり=「魂祭り(たままつり)」という祭りの一種です。盆踊りは、精霊のためのもてなしや供養のための芸能、という側面を持っているのです※3。

盆踊りの際、夜に徹夜までして踊るのは、こうした古くからの「祭り」の伝統が、盆踊りによく受け継がれているため、と考えることができます。

盆踊りの構成 Home